森ビル社長が語る都市の行方、麻布台ヒルズの次に放つ一手とは
森 ビル 社長の辻慎吾氏は、眼下に広がる東京のパノラマを前にして、静かに言葉を選び始めた。ガラス張りの役員フロアから見渡す首都の稜線は、この十数年で劇的に姿を変えた。その変貌の中心には、常に森ビル株式会社の執念がある。巨額の資金、地権者との数十年におよぶ対話、そして時に無謀とさえ囁かれたメガプロジェクト。周囲の喧騒をよそに、辻氏の眼差しはすでにその先、変わりゆく東京の「次の10年」へと注がれている。
グローバルな資本の流動性が高まり、国内の金利環境が潮目を迎えるなか、森 ビル 社長が下す決断には国内外の機関投資家からかつてない熱い視線が注がれている。単に容積率を買い、床を売る旧来の開発手法はすでに限界を迎えた。都市という生命体に血を通わせ、国際都市間競争で東京をいかに勝ち残らせるか。その青写真の輪郭が、いま露わになろうとしている。
麻布台ヒルズの熱狂を経て:辻慎吾氏が描く「ポスト2026年」の全体構想
約30年の歳月を費やして結実した麻布台ヒルズ。商業施設、高級レジデンス、インターナショナルスクール、そして高度医療機関がシームレスに交差するその「コンパクトシティ」は、開業以来、世界中の都市計画家を唸らせてきた。しかし、辻氏はその成功に安住する気配を微塵も見せない。
独占取材の席上、同氏が語ったのは麻布台の先にある「次世代の街づくり」の全容だ。焦点は、ハードウェアの圧倒的なスケールから、都市に滞在する人々の「ウェルビーイング」と「知的生産性の極大化」へと完全にシフトしている。不動産業界を長年覆ってきたオフィス床の供給過剰懸念を、森ビルは全く異なる次元の価値創造で跳ね返そうとしているのだ。先端テクノロジーと環境負荷ゼロを融合させた未公開の再開発プロジェクトが、都心主要エリアで密かに胎動を始めている。
創業者・森稔のDNAと「垂直の庭園都市」が遂げた独自の進化
辻体制を理解する上で避けて通れないのが、希代のカリスマと呼ばれた故・森稔氏の存在である。「ヴァーティカル・ガーデンシティ(垂直の庭園都市)」という理想を掲げ、細切れの土地をまとめ上げて空へ伸ばし、地上に豊かな緑を取り戻す。この哲学は、今なお社員一人ひとりの血肉となっている。
だが、辻氏の手腕は単なる理念の継承にとどまらない。森稔氏が直感と情熱で道を切り拓いたブルドーザーだったとすれば、辻氏はその情熱を精緻な工学体系と緻密な財務規律へと昇華させた指揮官だ。地権者一人ひとりと向き合う泥臭い合意形成の泥沼に自ら飛び込みつつ、資本効率を冷徹に見極める。創業者のDNAを宿しながらも、現代のグローバルスタンダードに耐えうる強靭な組織へと森ビルを進化させたのである。
六本木から虎ノ門へ、そして世界へ挑む都市再開発の真価
都市再開発という言葉が持つ重みは、六本木ヒルズから虎ノ門ヒルズへの変遷を辿れば一目瞭然だ。かつて「夜の街」「文化の発信地」として一世を風靡した六本木に対し、虎ノ門で挑んだのは「国際新都心・グローバルビジネスセンター」の創出だった。道路上空にビルを建てる立体道路制度の活用など、行政をも巻き込んだ前例なき規制緩和の突破劇は記憶に新しい。
いまや虎ノ門は、スタートアップと巨大資本、インキュベーション拠点が融合するアジア屈指のハブへと変貌を遂げた。点から線へ、線から面へ。森ビルが仕掛ける都市の連鎖反応は、ロンドンやニューヨークといったメガシティと対峙するための不可欠な武器となっている。
テレビ東京BIZや日経電子版が報じない巨大ディールの舞台裏
日々流れるビジネスニュースや経済ドキュメンタリー番組の特集、あるいは日経電子版のスクープ合戦では、華々しいタワーの竣工や商業施設の賑わいばかりが切り取られがちだ。テレビ東京BIZをはじめとする経済メディアでも、辻氏のスマートな経営者としての側面にスポットが当たることが多い。
しかし、巨大ディールの真の戦場はカメラの回らない暗がりにこそある。数百人、時に千人を超える権利者との利害調整。親の代から受け継いだ土地を手放したくない住民の頑なな心を溶かすのは、気の遠くなるような対話と誠意の積み重ねでしかない。「都市開発とは、突き詰めれば人間理解そのものだ」。辻氏が漏らしたその一言には、書類上のディールメイクでは測れない執念が滲んでいた。
激変する国内不動産業界:オフィス神話の終焉と新たな勝算
リモートワークの浸透、空室率の上昇、そして建設資材の高騰。国内の不動産業は、かつてないパラダイムシフトの渦中にある。「ただ綺麗な箱を作ればテナントが埋まる」という昭和・平成の成功体験は完全に崩壊した。
この逆風下で、なぜ森ビルの物件には世界の超一流企業や富裕層が吸い寄せられるのか。答えは明確だ。彼らが提供しているのは「床」ではなく、「その場所に身を置くことによって得られる磁力」だからだ。優秀な人材を引きつけ、創造性を刺激するコミュニティそのものを設計する力。他社がコスト削減のために緑地や文化施設を削るなか、森ビルはあえてそこに巨額の投資を注ぎ込む。この逆張りの発想こそが、結果として比類なきプレミアムを生み出している。
経済ドキュメンタリーの主役が語る「東京を世界一の都市にする」覚悟
辻慎吾という経営者が背負っているのは、自社のバランスシートだけではない。それは「東京」という都市そのものの国際競争力だ。少子高齢化が進み、アジアの他都市が急成長を遂げるなかで、日本が世界から選ばれる国であり続けるための防波堤となること。その強烈な危機感が、彼の歩みを加速させている。
「都市には、人の心を動かし、生き方を変える力がある」。インタビューの最後、夕暮れに染まる東京タワーを背にして辻氏は力強く言い切った。街を愛し、人に寄り添い、狂気とも呼べる緻密さで未来を現実へと引き寄せる。森ビル社長が描く次なる青写真は、私たちがまだ見ぬ東京の可能性を、鮮やかに照らし出している。 (出典: 森 ビル 社長(Yahoo!ニュース))